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状況を変える。生活が変わる\n–「最後の二人」になっても貫きたいもの  –

状況を変える。生活が変わる
–「最後の二人」になっても貫きたいもの –

デザインユニットPERMANENT31インタビュー

スチールプロダクトのエンジニアリングを得意とする酒井の着想を、デザイナーの視点で引間がサポート。
それぞれの専門領域を行き来しながらプロダクトを開発しているユニットPERMANENT31。
今回は彼らの2作目のプロダクトとなるSTEEL STORAGE WAGONの制作について話を伺った。

text & photograph 渡辺平日

ー酒井さん、引間さん、お久しぶりです。引間さんは前回のインタビュー以来ですね。今回もどんな話が飛び出すのか……楽しみでなりません。

酒井&引間:よろしくお願いします。

ーそれではさっそく質問に入ります。新作の「STEEL STORAGE WAGON」ですが、開発のきっかけを教えていただけますか?

酒井:少し前に引間さんの個展へ遊びに行った時に、木製のおもしろいワゴンが目に入ったんですね。天板が蓋になっていて、ちょっと横長という、変わったつくりで。
ファイルを取りやすくする工夫がしてあったり、仕事用としてよく考えられているなと感じました。

引間:そのワゴンはオフィス用に作ったものです。というのは、僕の奥さんが設計事務所に勤めているのですが、スタッフ全員が使うワークデスクとワゴンを作ることになって。そのデザインを僕が担当したんです。

酒井:引間さんのワゴンを見た時に「そういえば昔、DUENDEでワゴンを作ってたな」と思い出しました。けっこうよくできてたけどすでに廃盤になっちゃってて。「改めて、DUENDEとしてのワゴンを作りたいな」と思ったんです。

STEEL STORAGE WAGON

 


コロナがもたらした変化

酒井:ワゴン開発の強い動機となったのが、コロナウイルスによって人々の働き方が変わったことです。
職種にもよりますが、フルリモートワークになった方もいるでしょうし、「週に2〜3日は家で仕事をする」という方は今でも少なくないんじゃないかと。

ーうんうん。家でも仕事をするのって、けっして珍しくないです。 

酒井:そうだよね。書斎みたいな専用のスペースがあれば問題ないけど、だいたいはリビングやダイニングで仕事をすることになると思います。
仕事道具の定位置がないわけだから、テレビボードやソファの横とかに仕事道具が置きっぱなしになったりして。

ーそうなると暮らしづらいですよね。「ご飯だから早くテーブルを片づけて」ってなったりとか。

引間:目障りなだけではなく、仕事道具が視界に入るたびに仕事を思い出しそうですね……。

酒井:気持ちがオフにならないよね。
――そういう働き方の変化を見ているうちに「仕事道具をまとめておけ、移動でき、そしてインテリアに馴染む」収納があればいいなと思うようになりました。

引間さんが作ったワゴンの要素を家庭用に置き換えたときに、DUENDEとしてつくるワゴンのイメージができました。つまり、蓋を開ければオンに、蓋を閉じればオフにできる、そういうワゴンを。

 


デザインと機能の両立

引間:蓋があるおかげで仕事とプライベートを区切ることができますし、それ自体がプロダクトのデザイン性にも大きく貢献していると思います。

ーああ、たしかに。開けた状態と閉じた状態ではずいぶん印象が変わりますよね。開け心地も良好で、スイッチが入る気がします。逆に蓋を閉めると「今日はもうおしまい!」って感じになりますね。

酒井:そうそう。閉めたら「仕事感がしない」ってのは、かなりこだわったポイントだね。

引間:気分を切り替えられるのは大事ですよね。家で仕事をしていると、なんとなくダラダラと続けてしまいがちです。

 


「温かさと軽やかさ」

ーでは次の質問です。前回も伺いましたが、製品開発のフローを教えていただけますか?

酒井:製品のコンセプトや基本設計は僕が考えて、それを引間さんがデザイナーとして構築していくのがおおまかな流れです。機能や使い勝手については、二人で膝を突き合わせて話し合い、じっくりと決めていきます。

酒井:僕は機能や構造から「製品のカタチと役割」を導き出します。あくまでもエンジニアだから、デザインではなく構造優先になります。
一方、引間さんは、ニュートラルな視点を持ったプロダクトデザイナー。ほら、ここのアール(丸み)を見てください。なんとも絶妙でしょう。

酒井:強度を担保するためにこの部分は曲げる必要があります。自分は直角に曲げることを想定していましたが、引間さんの提案により、アールをもたせることにしました。そのおかげで、どこか温かみのある、ニュートラルな印象に仕上げることができた。知識や経験に裏付けされたプロダクトデザイナーならではの仕事だと思います。 

僕が設計しただけならこれほど完成度の高いデザインは実現できません。

引間:ありがとうございます、ちょっと照れますね(笑)。

酒井:本人の前だから言いますけど(笑)。

引間:このワゴンは全体的にスッキリした造形ですから、ややもすると「のっぺら坊」みたいな印象になるんです。味気がないというか……。
そうならないように「温かさと軽やかさ」を重視しながらデザインしていきました。

酒井:温かさって大事だよね。スチールって単純に曲げただけでは、冷たい印象のプロダクトになってしまうんですよ。
「温度感」のバランスを取るのは難しいけど、長く使える製品にするためには絶対に必要なプロセスです。

ー引間さんのおかげでデザインに奥行きが出たと……。

 


「15mm」の違い


いや、やはりいいコンビですね。さて、引間さんが作ったワゴンは木製だったということですが、なぜスチール素材に変更したのでしょうか?
 

酒井:木材は木材でほっこりした感じがして良いのですが、DUENDEで出すならスチールと決めてました。

酒井:スチールで作る一番のメリットは「薄さ」。木材だとある程度の厚みがないと重い物が支えられません。だからどうしても厚みが必要です。
一方、スチールであれば、木材ではつくれない、薄くて美しいデザインが実現できます。

引間:フレームを薄くすることで、内側のサイズ(内寸法)を有効に使えるという利点もあります。せいぜい15mm~18mm程度の違いですが、これが意外に大きいんですよ。

 


リビングに置いてあっても気にならない

引間:ちょっと話が変わりますが、最近はあらゆることがデジタル化しましたよね。ボタンをタップするだけでなんでも買えますし、外出先からエアコンや洗濯機も操作できちゃいます。コロナのせいでますますデジタル化が進んだように感じます。

引間:リモートワークはメリットの多い働き方ですが、オンとオフの境目がなくなるというデメリットもありますよね。そんな状況を変えたいという思いも、このプロダクトに込めています。

ーこのワゴンであれば、仕事が終わったら蓋を閉じることで、デジタルデバイスと距離を取れますね。

酒井:まさに蓋を閉めたらオフ。オブジェに見えるくらいシンプルだから、たとえリビングに置いてあっても気にならないかなと。

ーDUENDEといえば「ディテールの追求」ですが、このワゴンではどこにこだわりましたか

酒井:蓋を開けたとき、ちょうどいい位置で止まるようにしていますが、この仕組みはかなり凝っていると思います。
そのほか、キャスターが見えないように最下段の傾斜棚のところにうまく収めたり、運搬費なども含め、コストを抑えるために組み立て式を採用するなど、こだわった部分は多いですね。

引間:開発の途中で追加した部分もあります。たとえば背面にある電源ボックスは、開発当初は考えてなかった部分です。

引間:近頃はパソコンだけではなく、タブレットやスマホなどを仕事に使う人も増えてますよね。「ワゴンが充電ステーションにもなるといいな」と考えて追加提案をしたんです。

酒井:ここもかなり二人で協議しましたね。取り外しができるボックスに電源タップごと収納し、ワゴンの背面からは主電源だけが出るようになりますので、見栄えもずいぶんとスッキリします。

ーごちゃごちゃしたケーブルは「部屋づくり」の敵ですからね(笑)。なんとも嬉しい機能です。

引間:収納についてですが、ファイルや書類ボックスがきっちり仕舞えるよう、最下段の収納ゾーンは大きめにしました。

引間:ファイルホルダーは奥に向かって10°の傾斜を付けています。取り出しやすくなるだけではなく、収納物が斜めに収まるので、本や雑誌が美しく見えます。

 


アイデアを思いついたとき、興奮しました

引間:フックを追加したのも変更点ですね。フックがあると用途が大幅に広がります。

酒井:カバンを掛けたり出来るように、幅もある程度広くしたいねと。ティッシュケースなんかを吊り下げてもいい。平日くんは「パソコンを絶対に濡らしたくない」と言って水筒をぶら下げてたよね(笑)。

ーおっちょこちょいなもんで、よくコーヒーをこぼしちゃうんですよ(笑)。

酒井:ワゴンの横の穴は移動の時の引手の穴ですが、実はこれ、引手を打ち抜いた時に生じる金属片をそのまま利用してるんですよ。金属片を曲げてフックにしたというわけです。

引間:「打ち抜いたこの部分、フックにできるんじゃない?」と思いついた時、けっこう興奮しましたよね。

酒井
あの瞬間は、ほんとアツかったね。(笑)

引間:このアイデアって発想自体はシンプルなのですが、実際にやろうしたら結構ハードルが高いんですよ。普通だったらこの提案は嫌がられるかもしれません。でも酒井さんはおもしろがってくれますし、しかもアイデアを実現してくれるんですね。
ほんとうにすごいと感じますし、もっと酒井さんとものづくりがしたいなって思います。

 


たとえ最後の「二人」になっても

引間:言葉にするのはなんだか気恥ずかしいですが……。
STEEL STORAGE WAGONの開発はとても楽しかったですよね。

酒井:ほんとに楽しかった。こうしたほうがいいかも、と協議する度に、何回も図面書き直したけど(笑)。

引間:おおまかな仕様が最初から決まっていた分、細部についての議論は白熱しました。
あと、酒井さんの「ものづくり」に対する姿勢が、ちょっと変わった気がしたのが、個人的には興味深かったです。
以前より柔軟になったというか……。

酒井:自分では分からないけどそうなのかもね。ほら、俺も歳を取ったし(笑)。
――まじめな話をすると、以前よりも「使う人の姿」を思い浮かべることが増えてきて。
もちろん以前から使い手のことを考えながら作ってますよ。

でも今回はちょっと違う気がするんだよね。

ーなるほど。
私見ですけど、これまでの製品は「生活を豊かにしたい」「カッコいいライフスタイルを実現したい」というものが多いと思います。
もちろん今回のワゴンもそうですが、それと同時に、コロナによって「変容した生活を変えたい」というメッセージを感じました。

酒井:ああ、たしかにそれはあるかもね。
「この状況をなんとかしたい」という動機から製品開発を始めるのって、今まであまりなかったかもしれない。

酒井:STEEL STORAGE WAGONってシンプルだけどかなりこだわってる部分が多いの。
あれこれとこだわらなければ、もっと単純にできそうだし、コストも下げれるだろうけど、それでもこだわって作り込む。

ー二人を突き動かすものはなんなのでしょうか?

酒井:なんというか……。我々がつくっているものは、ただの道具じゃないと思うんですよ。その感覚が僕らを動かしてくれるんです。

引間:そうですね、ただの道具じゃない。
――想像を巡らせて導き出した製品の佇まいや角の丸みが、使い手の目や指先から伝わり、何気ない日常に心地よさを与えてくれる。
そういうものを、ずっと使いたくなる道具を、僕らはつくり続けたいです。

酒井:うん。捨てたくないって思えるようなものを生み出したいね。

これから先はますます、安さを追求した「ただの道具」が増えていくと思います。「もうこれでいいじゃん、こだわらなくていいじゃん」って感じの商品が。

だけど僕らは、『ラストサムライ』じゃないですけど、たとえ最後の「二人」になっても、ずっと使いたくなる道具を追求していきたいと思っています。

 

 

STEEL STORAGE WAGON

DARK GREY

LIGHT GREY

 

 

インタビュアー : 渡辺平日
日用品愛好家。大学を卒業後、インテリアショップに就職。仕事を通じて「もの」に対する知識や感性を養う。現在は雑貨やインテリアのレビュー、カフェやホテルの取材、プロダクトの開発など、多方面で活躍している。ライフワークは日用品屋巡り。
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